スクールMARIKO2016第二回は6月18日、福島県から南相馬ひばりFMチーフディレクターの今野聡さんをお迎えし「南相馬災害FMから島根に伝えたいこと」と題して開催しました。場所はいつものカラコロ工房地下大金庫室。会場設営など慣れた場所ですが、昨年9月以来今年度は初めてとあって、何だか新鮮な心持ちで準備に取り掛かりました。いつもよりちょっと丁寧にステージと客席をレイアウトして、いつもよりちょっと入念に打ち合わせを終えた会場には、毎回お見掛けする顔に混じって今回初めてご来場くださったお客様の顔もあり、たくさんの皆さまにお出掛けいただきました。ありがとうございました。
東日本大震災直後の2011年4月に臨時災害放送局として開局された南相馬ひばりFMで、今野さんが同年7月からスタッフとして地元に向けて情報を発信し続けてきた経験や、原発事故直後に避難をした時の心境と5年を経過した現在に至るまでの心境の変化。避難指示解除を7月に控えた南相馬市小高区と、帰還を目前にした住民の方々や市内の様子。東電、東電社員、原発に対する意識の移り変わりや、原発敷地内では除染やフェイシングにより放射線量が低下し作業環境が改善されている現実もあることなどをお話しいただきました。
今野さんは、今回スクールMARIKOで話しをするための取材をされたそうです。お聞きした内容や写真の多くは、そうやって自分の目と耳と足で集められた最新の情報でした。前を向いて進もうとしている、取材された方々の姿勢も感じられました。開場直前まで用意した原稿に目を通したり、プロジェクターで映す画像のチェックをしたり、入念な準備を重ねていた姿と冷静で落ち着いた態度が印象的でした。
今年のスクールMARIKOが始まる少し前、以前にゲストでお招きした社会学者の開沼博さんが『風化を防ぐための情報発信が風評になってしまってはいけない』とラジオで話しているのを聞きました。
地震直後に報じられた、大きな揺れと津波による被害や原発事故の映像が、ごちゃ混ぜになって残像みたいに脳裏に焼き付いていたり、「復旧復興は遅々として進んでいない」、「被災者は皆、東電や原発に憤りを感じ、放射能に怯えながら、不自由な生活を続けている」みたいなイメージは誰にも少なからずあるのではないでしょうか。新しい情報から遠ざかるとそのイメージが固定されてしまいます。しかし、実際には少しずつかもしれないけれど前進もしています。また新たな問題が表面化してくる事があるかもしれません。
震災直後に比べ情報が減って風化が懸念される中、また根本的な問題が解決していない中で、忘れないことはとても大切ですが、状況は良くも悪くも常に変化していくことを意識し、新しい正確な情報をもとにして、これから先のことを考えなければならない、ということなのだと思いました。遠い場所から被災地の事を思う時、今後考慮しなければならない事です。
今野さんが話してくれた最新の情報は、ラジオで聞いた開沼さんの言葉ともリンクして、固定されかけたイメージに支配されそうな頭の中の情報を書き換えてくれた気がします。「南相馬災害FMから島根に伝えたいこと」の最後に、遠慮がちに今野さんが伝えたことは、「観光でいいから来てみて下さい」。昨年の秋に仙台から南下して相馬市までは行きました。それから半年以上が経って変わったこともあるかもしれない。南相馬市へもいつか行けたらと思います。
忘れないこととは、ずっと覚えていることだけではなく、「ずっと知り続けること」でもあると思います。この目でみた福島の景色や出会った人達の表情がどう変わっていくのか、これからもスクールMARIKOに関わり続け、ずっと知り続けようと思います。
スタッフ森田