若い人たちの目が地域に向いている、と田中輝美さんは言う。
こういう若い人たちのリアルな感覚を拾う「嗅覚」が彼女にはある。
もともと新聞記者というキャリアを地道に歩んでこられたゆえの「嗅覚」かもしれない。
僕も大学生と接することが多いので、この若者の感覚はよくわかる。
彼らはこの国の高度成長を知らない。
生まれたときから経済は冷え込み、成長は止まり、「失われた世代」と言われてきた。
だから都会に出て、一旗あげて…というロールモデルはもう役に立たない。それは「成長」が生きているときにのみ機能する神話だ。
「成長」も「発展」も眉に唾をつけて聞いている彼らがどこかで欲しているのが、誰かの(何かの)ために働いているという実感である。
たしかに会社にいても給料はもらえる。けど彼らが求めているのは、通帳の残高が増えるような実感ではなく、誰かに面と向かって「ありがとう」と言ってもらえるような、肌感覚でわかる実感である。総じて自己肯定感が低く、リアルな人間関係を構築してこなかった若者ほど、この実感を欲している。
今夏、学生を連れて隠岐の知夫村(知夫里島)に行った。卒業生が役場で働いていて、彼がアテンドしてくれたのだ(この島の美しい自然と美味しい魚介類と親切な人たちについても書きたいのだが、それはまた別の機会に)。正直、僕はちょっと心配していた。人口600人の閉じた島で、世間知らずの若者がひとり生きていけているのかを。ところが僕の心配は杞憂にすぎず、彼は活き活きと暮らしていた。水があったのかもしれない。彼と話していてわかったのは、彼が村の人から「必要とされている」ということだ。それはそうだろう。人口100万人の都会で暮らすより、600人の村で暮らす方が、一人当たりのウェイトは大きくなる。若者が少ない島なら、彼の「貴重さ」はなおさらだ。直接、言葉にはされないかもしれないが「ここには君が必要なんだ」という島民たちの思いがあり、おそらくそれが彼を動かしている。
今回、田中さんの講演のキーワードになったのが「関係人口」である。彼女の言い方を借りるなら「観光以上、定住未満」となる。そこには住まないけど、なんらかのかたちで応援する、あるいは気にかけるということだ。
僕にも好きな土地がある。知人がいるところもあれば、ただ観光で訪れただけの場所もある。でも好きな土地だ。新聞で地名を目にすれば記事を読んでしまうし、誰かがその地について話していたら、ついつい話に割って入りたくなる。僕にとっては先の知夫村がそうだし、日本全国駆け回っている日直ハマダさんになると、この「関係」はタコの足のように四方八方に伸びていることだろう。またスクマリはスタッフ全員で福島を応援している。
では、この関係人口が何の役に立つのか? 実は地方の側からすれば嬉しいことが多い。言うまでもなく、地方には人口減に起因する問題が山積している。バスの便は減り、学校は閉校になり、地域の祭りも開催できなくなる。平たく言えば「ヒトとカネ」がない。これを関係人口である程度は穴埋めできるかもしれないと田中さんは考えている。例えばクラウドファンディング、ふるさと納税、イベントへの参加。あるいは身近な友人に、その地の魅力を伝えるだけでもいい。そうすることでヒトとカネの流れを作り出し、疲弊した地方が再び活気を取り戻すかもしれない。
これまで自治体は「移住」を推進してきたが、都会の人を取り合うゼロサムゲームに、近年、全国の地方が疲弊しているというのが現状だ。それなら「定住人口」ではなく「関係人口」を増やして、地方全体が潤えばいいのではという方向にシフトしつつある。
たしかに関係人口の定義は曖昧だし、その効果も未知数なところがある。また「地方」といってもその実情はさまざまで、一概に語ることは危険ですらある。
けれども、関係人口とそれに関わる若者のことを、田中さんは笑顔で語る。
それは、ローカルジャーナリストとして島根に根を張った彼女の決意のあらわれなのかもしれない。
暗い話ばかりが山積する地方の問題だが、彼女の笑顔のなかに一条の光を見た気がした。
(スタッフ:ふくい)
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ことしもスクールマリコ全3回、無事終了しました。
お越しいただいたみなさま、本当にありがとうございます。
感謝の意味も込めまして、今年も「芋煮会」を開催します。
日時:11月25日(日)16:00~19:00
場所:ミュージックバー Birthday
(松江市寺町203-1 0852-21-0120)
会費:2,000円(1ドリンク付き)
定員の関係上、ご予約をお願いします。メールかお電話にてお申し込みください。
メールアドレスは schoolmariko@gmail.com 電話は080-1918-9247です。